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2009.07.30 Thu 12:16:01
(超斐:仮)(1)(2)(3)(?)
乞い
九十九の恋と一編の愛-憧れで尊敬で恋情 123
九十九の恋と一編の愛-雲谷の掛かる恋 1234
落ちない女と、懲りない男。
それは、例えば、空と陸と海なんかを、反転させる事。 前中後了
落ちない女を、落とした男、のちょっとした誤算。
落ちない女の、落とせないわけ。
五感で感じる 12345
セメントキッス
大理石のジョーカーフェイス
宣戦布告
愛はそこに
黄金メロウ
スイート・アナフェクティド
何処まで本当かわからない虚勢
彼の煙草事情
香水よりも甘く薫る
クラシカル・テンダー
名も知らないのに君が呼ぶから
元教師よりも、合コンの女。
花色事情と余裕のない男
私の男と鉄パイプ
腕の檻の姫
全部慎久美!(気持ち悪いよお前)
こんなん書いててテスト受けてたとかわたしちょっと馬鹿・・・・?
はじめて一ヶ月でこんなに書いたよ!珍しいよ!かっこついてる奴はまだ上げてない奴で、書きあがってはいる奴。?がついてるのは、何本立てになるかわからない奴。下が古いよ。
これでも忙しかったんですって誰が信じてくれるんだろうか・・・・・・(いや違うんだ違うんだよテスト終わったあと帰り道で2本くらいかいてたりな!こうな!)(忙しかった。忙しかったですよ。単語帳がっつり消費しましたよ)(でも二次創作の時間て大切よだって私おたく・・・・・・!)
この情熱を勉学に傾ける事が出来れば私の成績はきっと上がるんだと思う。orz
あと不思議なのは、これがサイトのメインカプじゃないってことくらいか。
メインはサイサクサスナルですよ。更新してないけどな!
いいんだいいんだ所詮うちのサイトはよろずサイト・・・・・・!
誰ですか「専門学校入ったら腐おた卒業かなー自然消滅かなーうあー寂しいなー」とか思ってた奴。私だ。
あほなことしすぎたので、そろそろ勉強してきます。
なにがいけないってさ、究極トイレでも書けるってのがいけないと思うんだよ。(書いてんのかって言われたら書いてないけどさあ・・・・・)
乞い
九十九の恋と一編の愛-憧れで尊敬で恋情 123
九十九の恋と一編の愛-雲谷の掛かる恋 1234
落ちない女と、懲りない男。
それは、例えば、空と陸と海なんかを、反転させる事。 前中後了
落ちない女を、落とした男、のちょっとした誤算。
落ちない女の、落とせないわけ。
五感で感じる 12345
セメントキッス
大理石のジョーカーフェイス
宣戦布告
愛はそこに
黄金メロウ
スイート・アナフェクティド
何処まで本当かわからない虚勢
彼の煙草事情
香水よりも甘く薫る
クラシカル・テンダー
名も知らないのに君が呼ぶから
元教師よりも、合コンの女。
花色事情と余裕のない男
私の男と鉄パイプ
腕の檻の姫
全部慎久美!(気持ち悪いよお前)
こんなん書いててテスト受けてたとかわたしちょっと馬鹿・・・・?
はじめて一ヶ月でこんなに書いたよ!珍しいよ!かっこついてる奴はまだ上げてない奴で、書きあがってはいる奴。?がついてるのは、何本立てになるかわからない奴。下が古いよ。
これでも忙しかったんですって誰が信じてくれるんだろうか・・・・・・(いや違うんだ違うんだよテスト終わったあと帰り道で2本くらいかいてたりな!こうな!)(忙しかった。忙しかったですよ。単語帳がっつり消費しましたよ)(でも二次創作の時間て大切よだって私おたく・・・・・・!)
この情熱を勉学に傾ける事が出来れば私の成績はきっと上がるんだと思う。orz
あと不思議なのは、これがサイトのメインカプじゃないってことくらいか。
メインはサイサクサスナルですよ。更新してないけどな!
いいんだいいんだ所詮うちのサイトはよろずサイト・・・・・・!
誰ですか「専門学校入ったら腐おた卒業かなー自然消滅かなーうあー寂しいなー」とか思ってた奴。私だ。
あほなことしすぎたので、そろそろ勉強してきます。
なにがいけないってさ、究極トイレでも書けるってのがいけないと思うんだよ。(書いてんのかって言われたら書いてないけどさあ・・・・・)
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2009.07.30 Thu 10:15:15
その他のごくせんにもっさりupしました。29個?あれ全部7月入ってから書いてました。ずっとあれに掛かりきりでした。阿呆か自分orz
基本カップリングは慎久美。
こないだ映画観にいきました。仲間由紀恵のかわいさにはぁはぁしました。
基本カップリングは慎久美。
こないだ映画観にいきました。仲間由紀恵のかわいさにはぁはぁしました。
2009.07.28 Tue 12:13:18
ちっちゃくってコロコロした宝石みたいなチョコレートをひとつ、口の中に放り込んで。ああ、すっぱい。包み紙を見ると、カサカサなる音、黄色。レモンだ、と酸味を認識した。汚くて、汚くて、どろどろ溶けてしまいそうだ。どろどろ溶けてしまいたい。笑えるほど笑えないどん詰まり、何がしたいんだろう。わからないままで、チョコレートをもうひと粒。何にも考えてなかった訳じゃないのに、と自分に言い訳をして、泣いた。卑怯だ。最低だ。最悪だ。アイツが悪い、全て悪い、言えるなら、私はこんなにぐしゃぐしゃにはなっていなかった。気付いて、自嘲する。チョコレートは、噛み砕けなかった。溶けて、溶けて。
「なんで、いないの、よ」
目覚まし時計を、握りつぶさんばかりに取り上げる。投げる。声はかすれて、腰は震えて、バカみたいだ。居て欲しかったのか、自問して、何方とも言えずに、またため息。枕元にばらまいた色とりどりのフルーツチョコレートが、ぼやけた。
「なんでいないのよ無神経朴念仁能面……ッ」
他の人なら良かったのか、例えば、例えば、例えば? ヒィ、と喉がひきつる音がして、気管に唾液が入る。苦しくなって、咳をして、涙も鼻水も出てきて、全部裸の太腿に落ちた。つるつるの真赤な掛け物を素肌に引っ掛ける。
きっと汚い顔だ。シャワーを浴びたい。サクラが顔を上げる。と、そこには気配を消した気配が立っていた。え、ハ、任務は、どう、したのよ、ばっかじゃないのばっかじゃないのばっかじゃないの!
「なんで泣いてるのかな……?」
「……ンで居るのよ!」
「君を抱いたから」
「は、ァ?」
「置いていったらいけない」
そんな、答えが欲しかったんじゃない。どこでそんな人間じみた感情拾ってきたのよ、と心内で呟いて、元々持っていたなんて信じない、と、吐き出した。
「サクラ、顔が汚いよ」
「アンタが抱いたからよ」
「後悔しているのかな?」
「してるわよ、すっごい。これからどんな顔で、アイ、ツ、……ああ……あ、も、いい……。こうかいしてるけど、いい、平気、大丈夫」
何よ、バカだ。今更気付いた、もしかしたら、喘いだ夜には気付いていた? 私はちゃんと愛せてる。愛してあげたいなんて思わなくても、しっかり愛せてる。悔やんだっていいんだから、これは、わたしの、恋愛マイナス恋、の過程だ。だめ、頭回らない。
サイが、柄にもなく、桃の髪をなぜる。焦っているのかも知れない。何に? サクラが後悔していると言ったことにだろうか? 酷く今更なのに。だって、サクラはいつだって後悔の海を航海している。
「ナルトやサスケ君に合わせる顔がない?」
「ってちょっとおもったけど、でも、わたしは、アンタを愛せてるから、大丈夫」
「……すごいね」
「うるさい。……だめ、あったま痛い……寝るわ……」
「チョコレート仕舞わなきゃいけないよ」
「ねえ」
「ん? どうかした、サクラ?」
「アンタは、私を、愛せてる?」
「愛してるよ」
任務を休んで、サクラの髪をずっと撫でていたいと思うほどには。
「任務」
「休んだよ」
「それって、今までで、何回めの欠勤?」
「初めてだよ」
サイの指先で、紫の包み紙が、かさりと鳴った。
「なんで、いないの、よ」
目覚まし時計を、握りつぶさんばかりに取り上げる。投げる。声はかすれて、腰は震えて、バカみたいだ。居て欲しかったのか、自問して、何方とも言えずに、またため息。枕元にばらまいた色とりどりのフルーツチョコレートが、ぼやけた。
「なんでいないのよ無神経朴念仁能面……ッ」
他の人なら良かったのか、例えば、例えば、例えば? ヒィ、と喉がひきつる音がして、気管に唾液が入る。苦しくなって、咳をして、涙も鼻水も出てきて、全部裸の太腿に落ちた。つるつるの真赤な掛け物を素肌に引っ掛ける。
きっと汚い顔だ。シャワーを浴びたい。サクラが顔を上げる。と、そこには気配を消した気配が立っていた。え、ハ、任務は、どう、したのよ、ばっかじゃないのばっかじゃないのばっかじゃないの!
「なんで泣いてるのかな……?」
「……ンで居るのよ!」
「君を抱いたから」
「は、ァ?」
「置いていったらいけない」
そんな、答えが欲しかったんじゃない。どこでそんな人間じみた感情拾ってきたのよ、と心内で呟いて、元々持っていたなんて信じない、と、吐き出した。
「サクラ、顔が汚いよ」
「アンタが抱いたからよ」
「後悔しているのかな?」
「してるわよ、すっごい。これからどんな顔で、アイ、ツ、……ああ……あ、も、いい……。こうかいしてるけど、いい、平気、大丈夫」
何よ、バカだ。今更気付いた、もしかしたら、喘いだ夜には気付いていた? 私はちゃんと愛せてる。愛してあげたいなんて思わなくても、しっかり愛せてる。悔やんだっていいんだから、これは、わたしの、恋愛マイナス恋、の過程だ。だめ、頭回らない。
サイが、柄にもなく、桃の髪をなぜる。焦っているのかも知れない。何に? サクラが後悔していると言ったことにだろうか? 酷く今更なのに。だって、サクラはいつだって後悔の海を航海している。
「ナルトやサスケ君に合わせる顔がない?」
「ってちょっとおもったけど、でも、わたしは、アンタを愛せてるから、大丈夫」
「……すごいね」
「うるさい。……だめ、あったま痛い……寝るわ……」
「チョコレート仕舞わなきゃいけないよ」
「ねえ」
「ん? どうかした、サクラ?」
「アンタは、私を、愛せてる?」
「愛してるよ」
任務を休んで、サクラの髪をずっと撫でていたいと思うほどには。
「任務」
「休んだよ」
「それって、今までで、何回めの欠勤?」
「初めてだよ」
サイの指先で、紫の包み紙が、かさりと鳴った。
2009.07.28 Tue 12:11:09
のう、乱馬よ、止水桶というものを知っとるか?
妖怪爺から漏れた単語に、乱馬は露骨に嫌な顔をした。妖怪爺……八宝斎は乱馬を見ずにひたすらアイロン掛けにいそしんでいる。勿論、盗品だ。そんな元気な爺さんに一つ溜め息を吐いた乱馬は、転がっていた畳から腹筋を使って起き上がる。
「知ってるぜ」
というか、思い出したくないくらいだ。あれに関しては良い思い出が一つもない。……否、一つあったか。乱馬の脳裏に、あかねの旋毛と回された腕の温かさが蘇る。けれど、何故じいさんがそんな物の名前を突然出してきたのか? ふと下着の山を見ると、八宝斎の姿がない。気配を後ろに感じたときには、遅かった。
ばしゃり、と水の跳ねる音。
「ぶわっ!」
「止水桶を使うとこの女体が見苦しい男の姿に戻らんというのは本当かのー」
「どわわわわええいやめんかー!」
らんまは胸にへばり付く小さい爺さんを鷲掴むと、放り投げる。嫌な予感がした。目の前の湯飲みのお茶をひっかぶって、消えているテレビの画面に姿を映して、愕然とする。嫌な予感というものは、やたら的中するものだ。まだ比較的温かかったお茶は、けれどらんまの身体変化を誘うには至らなかった。それはまさに、止水桶の如く。
「糞ジジイ何しやがった!」
一ヶ月の、ある一週間。
止水桶といえば、呪泉の効果を留めるために使われる、桶だ。その桶と柄杓は開水封と呼ばれる湯沸かし器と対を成す。いつだったかこの道具のせいで、乱馬、良牙、ムースが苦い経験をした。まさか、また被ることになるのは思わなかった。止水。しかも、簡易。
「効果持続時間は約一ヶ月、簡易止水桶?」
「中国の呪泉郷通販で買ったんだって」
「通販で、呪泉郷」
妖怪爺から漏れた単語に、乱馬は露骨に嫌な顔をした。妖怪爺……八宝斎は乱馬を見ずにひたすらアイロン掛けにいそしんでいる。勿論、盗品だ。そんな元気な爺さんに一つ溜め息を吐いた乱馬は、転がっていた畳から腹筋を使って起き上がる。
「知ってるぜ」
というか、思い出したくないくらいだ。あれに関しては良い思い出が一つもない。……否、一つあったか。乱馬の脳裏に、あかねの旋毛と回された腕の温かさが蘇る。けれど、何故じいさんがそんな物の名前を突然出してきたのか? ふと下着の山を見ると、八宝斎の姿がない。気配を後ろに感じたときには、遅かった。
ばしゃり、と水の跳ねる音。
「ぶわっ!」
「止水桶を使うとこの女体が見苦しい男の姿に戻らんというのは本当かのー」
「どわわわわええいやめんかー!」
らんまは胸にへばり付く小さい爺さんを鷲掴むと、放り投げる。嫌な予感がした。目の前の湯飲みのお茶をひっかぶって、消えているテレビの画面に姿を映して、愕然とする。嫌な予感というものは、やたら的中するものだ。まだ比較的温かかったお茶は、けれどらんまの身体変化を誘うには至らなかった。それはまさに、止水桶の如く。
「糞ジジイ何しやがった!」
一ヶ月の、ある一週間。
止水桶といえば、呪泉の効果を留めるために使われる、桶だ。その桶と柄杓は開水封と呼ばれる湯沸かし器と対を成す。いつだったかこの道具のせいで、乱馬、良牙、ムースが苦い経験をした。まさか、また被ることになるのは思わなかった。止水。しかも、簡易。
「効果持続時間は約一ヶ月、簡易止水桶?」
「中国の呪泉郷通販で買ったんだって」
「通販で、呪泉郷」
2009.07.28 Tue 12:10:46
真雪散りりと、嗚呼、麗しい、手に、手に降り落ち、融け、掌を焼き。
まゆき
表にふわりと舞う雪に、あ、と声を洩らす。また、降ってきたみたい。足は火鉢に向けたまま、身体だけを戸口へ乗り出す。ひゅう、と風が鳴った。積もる、降り散る、雪の色、風の音が余計に寒さを際立たせる。嗚呼、そういえば、あちらはこちらほど寒くは無かった。
こちらで迎える初めての冬は、耳も手の指の先足の指の先までもきりりと冷える程に、寒い。時代の違いは目に見えぬこういった場所にも存在するのだと、改めて感じる。
体を戻して、火に両手を翳した。寒いね、と、傍らで粉を練り痺れ薬を作る少女に微笑めば、そうだね、と返る。とはいえ、野宿でないだけまだ良い方なのだろう。それに武蔵国はまだ暖かい方だ。
冬には冬の装備というものがあり、春夏秋冬同じ一張羅でいても良い犬夜叉や温かな冬毛に生え替わる雲母とは違い、師走の寒さを凌ぐには防寒具が必要なかごめ、珊瑚、弥勒、それにまだ子どもの七宝は、その装備を揃えねばならない。立派な屋敷の上の不吉の雲を取り除けば多少の金子と一晩程度の雨風をやり過ごせる屋根は手には入るが、雪が降り積もる前に一度は楓のいる村へ帰り、身支度を整えたい、というのが、犬夜叉以外の気持ちであった。ついでにそろそろ学校に行かねば、と息を吐くかごめの要望も手伝って、楓の村へ踵を返した犬夜叉一行である。
さて、その村へ足を踏み入れたとたんに楓に声をかけられた。犬夜叉と弥勒が、である。「お主ら、体に大事ないか?」「ああ? そりゃあババアの方だろ。俺達はピンピンしてらあ」「そうか」ならば手伝え。で、男手の必要な雪下ろしに駆り出された二人は文句一つ言う隙は疎か息つく間すらなく楓とともに家々を回り、まだ帰らない。積雪前に戻りたいという願いこそ叶わなかったが、まあ、そこはそれ。だ。
男衆が力仕事をしているその間に井戸に乗せられた雪除けの板を外しその中に飛び込み現代へと戻ったかごめは、井戸を上り、祠を出、玄関を開けてそこに掛かるカレンダーを見た瞬間に脱力した。赤いマーカーでつけられた×印、は、二十八日を潰したところだ。つまり、今日は二十九日。
「冬休みじゃん……」
ぱたぱたと足音をさせて玄関口へ出てきた母は、にっこり笑うと、おかえりなさい、と娘を迎えた。
去年までのこの時期は暮れに迫る晦日、大晦日に向けて清めの大掃除に参加していたかごめだったが、今年は自分の部屋を片付けただけで終わった。それも、一カ月に一週間いるかどうかわからない身空であるに加えて毎日母が掃除機をかけてくれているため、棚や鏡を少し拭いただけで終わってしまう。何となく物足りなさを感じながら階下へ行くと、母手製の料理達が匂いとともにタッパーに入り、テーブルに鎮座在していた。風呂敷を持った母は、微笑みながら、終わった? と問う。うん、と首肯する。
「お正月は戻ってこられるの?」
「犬夜叉が良いって言えばね……でも、犬夜叉が駄目だって言っても、あの雪の量じゃ直ぐには出発出来ないだろうし戻ってこられるかも」
「そう、じゃあ御節は一応用意しておくわね」
これ、みんなで食べて。手渡された風呂敷は、温かい。いつでも美味しいものを手軽に口に入れられる現代とは違い、あちらはどうしてもその時々で手にはいる食材が限られてしまう。母の優しさと心づかいをその心身に感じ、かごめは、風呂敷を抱きしめた。
いつもならば三日間は現代にいる。けれどあの積雪量だ。如何に高さのある井戸とはいえ中に降り積もらないとは限らない。井戸の雪除け板は中から被せるのは難しかったため、外したまま。下手をすれば、あちらに着いたときに雪に埋もれてしまうかもしれない。風邪でもひけば、犬夜叉の機嫌はさらに急下降することだろう。
ガラリと玄関の引き戸を開けても、誰もいない。まだ犬夜叉は解放して貰えずにいるのだろうか。こちらは雪が降る兆しすら見えないと言うのに。
「じゃあ、行って来ます」
「行ってらっしゃい」
母の見送りだけを背に受けて、かごめは再び戦国の世へ旅立った。
「流石に井戸の中にはつもらないか」
風呂敷包みを大事に持ち、井戸の底から這い上がればやはり一面銀世界。曇っている空模様だからこそ、その様子を目にとどめておけるが、これが晴れたらまばゆいほどで嘸や目に痛いだろう。
かごめは短い丈のスカートの裾をきゅっと握る。井戸に腰かけ、足先でもって、積もった雪をザクザク掘った。
「行かなきゃ」
楓の家に戻ると、雪は少しその勢いを弱めた。雲母がパチパチはぜる火鉢の近くで珊瑚に寄り添うように丸まっている。同様に七宝も丸くなっていたが、かごめが敷居を跨ぐと、ひょいひょいと跳んできた。
「ただいま、七宝ちゃん」
「早かったのう! おらは、また三日くらい返って来んのかと思っとったぞ」
「おかえり、かごめちゃん。まだ犬夜叉も法師様も帰って来てないんだ」
「珊瑚ちゃんは何やってるの?」
これは、臭い玉、こっちは痺れ薬。量が少なくなってきたからね。
珊瑚の周り、というか、楓の家から立ち込めるどことなく危険な香りに、かごめは苦く笑う。犬夜叉は怒りそうね。
「七宝ちゃんは平気なの?」
「かごめのくれた塵紙を鼻に詰めとるんじゃ」
まゆき
表にふわりと舞う雪に、あ、と声を洩らす。また、降ってきたみたい。足は火鉢に向けたまま、身体だけを戸口へ乗り出す。ひゅう、と風が鳴った。積もる、降り散る、雪の色、風の音が余計に寒さを際立たせる。嗚呼、そういえば、あちらはこちらほど寒くは無かった。
こちらで迎える初めての冬は、耳も手の指の先足の指の先までもきりりと冷える程に、寒い。時代の違いは目に見えぬこういった場所にも存在するのだと、改めて感じる。
体を戻して、火に両手を翳した。寒いね、と、傍らで粉を練り痺れ薬を作る少女に微笑めば、そうだね、と返る。とはいえ、野宿でないだけまだ良い方なのだろう。それに武蔵国はまだ暖かい方だ。
冬には冬の装備というものがあり、春夏秋冬同じ一張羅でいても良い犬夜叉や温かな冬毛に生え替わる雲母とは違い、師走の寒さを凌ぐには防寒具が必要なかごめ、珊瑚、弥勒、それにまだ子どもの七宝は、その装備を揃えねばならない。立派な屋敷の上の不吉の雲を取り除けば多少の金子と一晩程度の雨風をやり過ごせる屋根は手には入るが、雪が降り積もる前に一度は楓のいる村へ帰り、身支度を整えたい、というのが、犬夜叉以外の気持ちであった。ついでにそろそろ学校に行かねば、と息を吐くかごめの要望も手伝って、楓の村へ踵を返した犬夜叉一行である。
さて、その村へ足を踏み入れたとたんに楓に声をかけられた。犬夜叉と弥勒が、である。「お主ら、体に大事ないか?」「ああ? そりゃあババアの方だろ。俺達はピンピンしてらあ」「そうか」ならば手伝え。で、男手の必要な雪下ろしに駆り出された二人は文句一つ言う隙は疎か息つく間すらなく楓とともに家々を回り、まだ帰らない。積雪前に戻りたいという願いこそ叶わなかったが、まあ、そこはそれ。だ。
男衆が力仕事をしているその間に井戸に乗せられた雪除けの板を外しその中に飛び込み現代へと戻ったかごめは、井戸を上り、祠を出、玄関を開けてそこに掛かるカレンダーを見た瞬間に脱力した。赤いマーカーでつけられた×印、は、二十八日を潰したところだ。つまり、今日は二十九日。
「冬休みじゃん……」
ぱたぱたと足音をさせて玄関口へ出てきた母は、にっこり笑うと、おかえりなさい、と娘を迎えた。
去年までのこの時期は暮れに迫る晦日、大晦日に向けて清めの大掃除に参加していたかごめだったが、今年は自分の部屋を片付けただけで終わった。それも、一カ月に一週間いるかどうかわからない身空であるに加えて毎日母が掃除機をかけてくれているため、棚や鏡を少し拭いただけで終わってしまう。何となく物足りなさを感じながら階下へ行くと、母手製の料理達が匂いとともにタッパーに入り、テーブルに鎮座在していた。風呂敷を持った母は、微笑みながら、終わった? と問う。うん、と首肯する。
「お正月は戻ってこられるの?」
「犬夜叉が良いって言えばね……でも、犬夜叉が駄目だって言っても、あの雪の量じゃ直ぐには出発出来ないだろうし戻ってこられるかも」
「そう、じゃあ御節は一応用意しておくわね」
これ、みんなで食べて。手渡された風呂敷は、温かい。いつでも美味しいものを手軽に口に入れられる現代とは違い、あちらはどうしてもその時々で手にはいる食材が限られてしまう。母の優しさと心づかいをその心身に感じ、かごめは、風呂敷を抱きしめた。
いつもならば三日間は現代にいる。けれどあの積雪量だ。如何に高さのある井戸とはいえ中に降り積もらないとは限らない。井戸の雪除け板は中から被せるのは難しかったため、外したまま。下手をすれば、あちらに着いたときに雪に埋もれてしまうかもしれない。風邪でもひけば、犬夜叉の機嫌はさらに急下降することだろう。
ガラリと玄関の引き戸を開けても、誰もいない。まだ犬夜叉は解放して貰えずにいるのだろうか。こちらは雪が降る兆しすら見えないと言うのに。
「じゃあ、行って来ます」
「行ってらっしゃい」
母の見送りだけを背に受けて、かごめは再び戦国の世へ旅立った。
「流石に井戸の中にはつもらないか」
風呂敷包みを大事に持ち、井戸の底から這い上がればやはり一面銀世界。曇っている空模様だからこそ、その様子を目にとどめておけるが、これが晴れたらまばゆいほどで嘸や目に痛いだろう。
かごめは短い丈のスカートの裾をきゅっと握る。井戸に腰かけ、足先でもって、積もった雪をザクザク掘った。
「行かなきゃ」
楓の家に戻ると、雪は少しその勢いを弱めた。雲母がパチパチはぜる火鉢の近くで珊瑚に寄り添うように丸まっている。同様に七宝も丸くなっていたが、かごめが敷居を跨ぐと、ひょいひょいと跳んできた。
「ただいま、七宝ちゃん」
「早かったのう! おらは、また三日くらい返って来んのかと思っとったぞ」
「おかえり、かごめちゃん。まだ犬夜叉も法師様も帰って来てないんだ」
「珊瑚ちゃんは何やってるの?」
これは、臭い玉、こっちは痺れ薬。量が少なくなってきたからね。
珊瑚の周り、というか、楓の家から立ち込めるどことなく危険な香りに、かごめは苦く笑う。犬夜叉は怒りそうね。
「七宝ちゃんは平気なの?」
「かごめのくれた塵紙を鼻に詰めとるんじゃ」
2009.07.28 Tue 12:10:05
良牙が記憶喪失になったらしい。床につく度に譫言であかねを呼んでいるらしい。運び込まれたのは天道道場の近所の病院だそうだ。
すり替えの記憶
病院からの電話を取ったかすみに詳細を聞くと、どうやら良牙がうっかり壁を突き抜けたところに丁度四トントラックが走ってきて正面衝突したらしい。四トントラックの運転手は嘸かし驚愕したことだろう。なんの変哲もない道路を走っていたら、突然目の前の壁が崩壊して青年が出て来たのだから。
良牙は悪くないが、運転手を責めるのもお門違いな話といえる。
「あかねと乱馬君にお見舞いに行ってきてほしいの。私が行くよりも二人が行ってくれた方が何か思い出すだろうし、良牙君が譫言であかねの名前を呼んでるって言うから、あかねのことは覚えているかもしれないでしょう」
かすみは、これは一応の着替えと、消耗品、と、袋を一つ寄越した。此処まですることもないだろうけれど、どうせ良牙の実家に連絡したところで誰も出やしないし、電話に出たところで病院までは来られないことは乱馬がよく解っている。あの響一家は、揃いも揃ってトンデモ方向音痴だ。
かすみから受け取った袋を持ち、乱馬とあかねの二人で病院に向かう。病院、なんて、良牙には、一番近そうで一番遠い言葉なのに。
「良牙君、怪我大丈夫かな」
「どーだろーな……。ま、記憶の方は専門外だから解んねえけど、良牙の身体なら四トントラックで跳ねられたくらいじゃ壊れねえだろ」
「身体の方だって、専門じゃないでしょ。東風先生じゃあるまいし」
軽口を叩き合っている二人だが、常人であれば、即死だ。しかし良牙は常人ではない。打たれ強さは乱馬以上だ。ただ、打ち所が悪かったのだろう。記憶喪失、だなんて。あかねは少し、表情を曇らせていた。乱馬がそれをちらりと見やる。
「なんにせよ、会ってみねえことにはなー」
「そうよね……」
病院内は、静かだった。子どもよりも老人の方が多い。面会受付で病室を聞くと、にっこりと笑ったお姉さんが場所を教えてくれた。その顔が少しひきつって見えたのは、運び込まれた響良牙が四トントラックに跳ねられたにも関わらず記憶喪失だけで済んだから、だろうか? それとも、
ガラガラと病室のドアを開けると、彼はベッドに座っていた。リネン室から出されたであろう、真っ白なシーツ。
「よお、良牙。見舞いにきてやったぜ」
「乱馬……と、あかねさん……」
良牙の恐らくは膝の上に、乱馬が些か乱暴に荷をおく。
「いってえじゃねえか馬鹿野郎!」
「おーおー、元気じゃねーか。記憶もしっかりしてるみてえだし、これなら直ぐにでも退院できるな」
良牙はいつも通りだった。心配する事など一つもない。
「わざわざ俺のために……?」
「やーね、そんな大袈裟に」
でも、元気そうでよかった。笑うあかねに、良牙も笑顔になる。
「」
すり替えの記憶
病院からの電話を取ったかすみに詳細を聞くと、どうやら良牙がうっかり壁を突き抜けたところに丁度四トントラックが走ってきて正面衝突したらしい。四トントラックの運転手は嘸かし驚愕したことだろう。なんの変哲もない道路を走っていたら、突然目の前の壁が崩壊して青年が出て来たのだから。
良牙は悪くないが、運転手を責めるのもお門違いな話といえる。
「あかねと乱馬君にお見舞いに行ってきてほしいの。私が行くよりも二人が行ってくれた方が何か思い出すだろうし、良牙君が譫言であかねの名前を呼んでるって言うから、あかねのことは覚えているかもしれないでしょう」
かすみは、これは一応の着替えと、消耗品、と、袋を一つ寄越した。此処まですることもないだろうけれど、どうせ良牙の実家に連絡したところで誰も出やしないし、電話に出たところで病院までは来られないことは乱馬がよく解っている。あの響一家は、揃いも揃ってトンデモ方向音痴だ。
かすみから受け取った袋を持ち、乱馬とあかねの二人で病院に向かう。病院、なんて、良牙には、一番近そうで一番遠い言葉なのに。
「良牙君、怪我大丈夫かな」
「どーだろーな……。ま、記憶の方は専門外だから解んねえけど、良牙の身体なら四トントラックで跳ねられたくらいじゃ壊れねえだろ」
「身体の方だって、専門じゃないでしょ。東風先生じゃあるまいし」
軽口を叩き合っている二人だが、常人であれば、即死だ。しかし良牙は常人ではない。打たれ強さは乱馬以上だ。ただ、打ち所が悪かったのだろう。記憶喪失、だなんて。あかねは少し、表情を曇らせていた。乱馬がそれをちらりと見やる。
「なんにせよ、会ってみねえことにはなー」
「そうよね……」
病院内は、静かだった。子どもよりも老人の方が多い。面会受付で病室を聞くと、にっこりと笑ったお姉さんが場所を教えてくれた。その顔が少しひきつって見えたのは、運び込まれた響良牙が四トントラックに跳ねられたにも関わらず記憶喪失だけで済んだから、だろうか? それとも、
ガラガラと病室のドアを開けると、彼はベッドに座っていた。リネン室から出されたであろう、真っ白なシーツ。
「よお、良牙。見舞いにきてやったぜ」
「乱馬……と、あかねさん……」
良牙の恐らくは膝の上に、乱馬が些か乱暴に荷をおく。
「いってえじゃねえか馬鹿野郎!」
「おーおー、元気じゃねーか。記憶もしっかりしてるみてえだし、これなら直ぐにでも退院できるな」
良牙はいつも通りだった。心配する事など一つもない。
「わざわざ俺のために……?」
「やーね、そんな大袈裟に」
でも、元気そうでよかった。笑うあかねに、良牙も笑顔になる。
「」
2009.07.28 Tue 12:09:29
小さな男の子が倒れていた。三歳くらいの子で、俯せにぱったりと。あかねは制服をはためかせながらその子どもに駆け寄ると、急いで身体を起こしてやった。
「僕、起きて!」
口元に耳を近づければ、息はある。ゆらゆらと身体を揺すってみたり、ぺたぺたと小さく頬をたたいてみたりしてみるが反応しない身体に息を詰めたあかねは、子どもを抱きかかえると小乃接骨院へ足を向けた。と、子どもを抱きかかえた胸から、んー、とか細い声がする。ばっと顔を向ければ、一瞬眉間に皺を寄せた子どもが、瞼を持ち上げた。
「いたたた……うー……あれ?」
「気がついた? 良かった……」
あかねが安堵の表情を浮かべる。きょとんとその様子を見ていた子どもは、はた、と何かに気がついたように、一度頭を抑えた手を空中に伸ばしてぐーぱーぐーぱーと開いて閉じてを繰り返した。
「手が痛いの?」
やはり、東風先生に診てもらった方が良いかも知れない。お医者さんに診てもらおうか? 口を開きかけたあかねを遮るように、子どもが喋り出す。
「あなたが僕を助けて下さったんですか?」
「え……あ、ううん、私は君が倒れていたのを起こしただけ……」
見かけの割に流暢に、しかも丁寧な言葉遣いをする男の子に面食らったあかねは戸惑ったようにそれだけ吐き出す。質問してきた子どもは、一人、うんうんと首肯し、次いであかねに向かって、微笑んだ。
「僕のターゲットになってもらえませんか?」
天使の標的
「天使ィ?」
胡散臭さそうな顔をして子どもを見つめるのは、なびき、早雲、パンダもとい玄馬で、かすみとのどかは、先ほどから、可愛い、とにっこりしている。
あかねが、倒れていたのを連れてきた、という子どもは、この近所では見かけない子だった。あかねの膝の上でおとなしく座る様は人間の幼児そのものであり、連れてきた途端にかすみとのどかのハートを鷲掴みにしたあたりまるで天使のようだが、その実態は本当に天使だという。黒の巻き毛、零れそうな瞳、まあ確かに、天使と言われれば、天使だ。
「どこかから落ちたのかい?」
半信半疑の早雲が、呟いた。自称天使は首を横に振る。
「落とされるんです」
「落とされる?」
「ターゲットを幸せにしないと、帰れないんです」
ターゲット、の所で、あかねを見る。
「なんで私なの?」
「イメージとしてはひよこの刷り込みのようなものですが、落とされて気絶して、目が覚めてから初めて見た人をターゲットにするようになってるんです」
※※※
終わんなかった
「僕、起きて!」
口元に耳を近づければ、息はある。ゆらゆらと身体を揺すってみたり、ぺたぺたと小さく頬をたたいてみたりしてみるが反応しない身体に息を詰めたあかねは、子どもを抱きかかえると小乃接骨院へ足を向けた。と、子どもを抱きかかえた胸から、んー、とか細い声がする。ばっと顔を向ければ、一瞬眉間に皺を寄せた子どもが、瞼を持ち上げた。
「いたたた……うー……あれ?」
「気がついた? 良かった……」
あかねが安堵の表情を浮かべる。きょとんとその様子を見ていた子どもは、はた、と何かに気がついたように、一度頭を抑えた手を空中に伸ばしてぐーぱーぐーぱーと開いて閉じてを繰り返した。
「手が痛いの?」
やはり、東風先生に診てもらった方が良いかも知れない。お医者さんに診てもらおうか? 口を開きかけたあかねを遮るように、子どもが喋り出す。
「あなたが僕を助けて下さったんですか?」
「え……あ、ううん、私は君が倒れていたのを起こしただけ……」
見かけの割に流暢に、しかも丁寧な言葉遣いをする男の子に面食らったあかねは戸惑ったようにそれだけ吐き出す。質問してきた子どもは、一人、うんうんと首肯し、次いであかねに向かって、微笑んだ。
「僕のターゲットになってもらえませんか?」
天使の標的
「天使ィ?」
胡散臭さそうな顔をして子どもを見つめるのは、なびき、早雲、パンダもとい玄馬で、かすみとのどかは、先ほどから、可愛い、とにっこりしている。
あかねが、倒れていたのを連れてきた、という子どもは、この近所では見かけない子だった。あかねの膝の上でおとなしく座る様は人間の幼児そのものであり、連れてきた途端にかすみとのどかのハートを鷲掴みにしたあたりまるで天使のようだが、その実態は本当に天使だという。黒の巻き毛、零れそうな瞳、まあ確かに、天使と言われれば、天使だ。
「どこかから落ちたのかい?」
半信半疑の早雲が、呟いた。自称天使は首を横に振る。
「落とされるんです」
「落とされる?」
「ターゲットを幸せにしないと、帰れないんです」
ターゲット、の所で、あかねを見る。
「なんで私なの?」
「イメージとしてはひよこの刷り込みのようなものですが、落とされて気絶して、目が覚めてから初めて見た人をターゲットにするようになってるんです」
※※※
終わんなかった
2009.07.28 Tue 12:08:43
ギリコギリコ音して、そッち見たら、建て付けの悪ゥい扉がなってるわけ。これ、ヤーァな予感の始まりね。寧ろ初まり? もーソレコソドッチダッテカマワンわけだけれども。でもって、扉があいちまッた。これ、予感的中ゥー。
ぐだぐだと机に突っ伏すその姿に、溜め息混じりに珈琲を煎れてやる。いつも思っているのだが、薫りは出来る限りブラックで、だけど色は白っぽくなきゃヤだ市販のちっちゃなミルクはミルクなんて名ばかりの添加物の塊だからヤだ、なんて、ど、ん、だ、け、だ、ナァールゥートォーッアンタねェ、添加物なんてたぁっくさぁん日常の食事に取り入れてンでしょ、こンのラーメン狂、インスタントナメんじゃないわよ! もう死んだってそう簡単にゃ腐りもしないっつうの! はァーッ、……そして角砂糖は六ツだそうだ。溶けやしない。もう一人の客人は、何も入れないただのブラック。偶にどころか一度も見たことないこのお客人。依頼人ならカム、オン。お菓子だって出しますよ。そうでないならお帰り下さいませ。お菓子? 何それ美味しいの? だ。顔が幾らか宜しかろうとも、お金を落としていただけなくちゃあ、こちとら経理は火の車。本当は珈琲なんて煎れないで水道水突き出してやりたいくらいよ。等という思いは胸の内に秘めて、サクラは珈琲を汚い机に置いた。ナルトは未だに机に頭を傾けている。
「人様がいらしたとき位、机に懐くの辞めたら如何ですか」
つうか辞めなさい。真っ黄色の頭を後ろから引っ掴むようにして上げさせる。紺碧は据わりこんでいるから相手の精神衛生上どちらが好いかは明言出来ないけれど、机にベッタリよりはマシだろう。で。
「サスケさん、でしたっけ? 御用は何でしょうか」
「あー。サクラちゃんコイツ追い返していーってばよー」
「よかあないでしょ。なあに、知り合い?」
「友達未満知り合い未満顔見知り?」
俺がまだ青臭い餓鬼だった頃に袖を少ぅし振り合った位の縁だってばよ。お前は相変わらず頭弱ェな、袖振り合うも多生の縁、意味解ってねえだろ。手前ェも相変わらずムカつくな、学生時代にちーっと拘らっただけの癖にこんなとこまで何の御用ですかってばよー、どんな御用でも訊いてなんかやらねえけど聞いて、くらいならやるぜウチハサスケサマ?
ゴッと音がして、つい先まで珈琲を載せていた盆がナルトの頭にクリーンヒットした。させたのは言わずもがな、サクラである。
「団扇って言ったら、大財閥の御子息じゃないの!」
アンタどこにこんなカモ基お客様隠してたのよ! デモサクラちゃんソイツ次男坊だってばよ……?
要は、何でも屋なのである。電球の付け替え、気乗りしない見合いの替え玉そして破談、探偵の真似事、子供の遊び相手。法に触れなければ基本的には何でもやる。金はまあ、気持ち。大抵サクラちゃんが口八丁手八丁で気持ちより多めに頂いているが、それでも事務所は火車からの乗り換えが出来ない。如何せん、依頼人がいらっしゃらないのだ。
ぐだぐだと机に突っ伏すその姿に、溜め息混じりに珈琲を煎れてやる。いつも思っているのだが、薫りは出来る限りブラックで、だけど色は白っぽくなきゃヤだ市販のちっちゃなミルクはミルクなんて名ばかりの添加物の塊だからヤだ、なんて、ど、ん、だ、け、だ、ナァールゥートォーッアンタねェ、添加物なんてたぁっくさぁん日常の食事に取り入れてンでしょ、こンのラーメン狂、インスタントナメんじゃないわよ! もう死んだってそう簡単にゃ腐りもしないっつうの! はァーッ、……そして角砂糖は六ツだそうだ。溶けやしない。もう一人の客人は、何も入れないただのブラック。偶にどころか一度も見たことないこのお客人。依頼人ならカム、オン。お菓子だって出しますよ。そうでないならお帰り下さいませ。お菓子? 何それ美味しいの? だ。顔が幾らか宜しかろうとも、お金を落としていただけなくちゃあ、こちとら経理は火の車。本当は珈琲なんて煎れないで水道水突き出してやりたいくらいよ。等という思いは胸の内に秘めて、サクラは珈琲を汚い机に置いた。ナルトは未だに机に頭を傾けている。
「人様がいらしたとき位、机に懐くの辞めたら如何ですか」
つうか辞めなさい。真っ黄色の頭を後ろから引っ掴むようにして上げさせる。紺碧は据わりこんでいるから相手の精神衛生上どちらが好いかは明言出来ないけれど、机にベッタリよりはマシだろう。で。
「サスケさん、でしたっけ? 御用は何でしょうか」
「あー。サクラちゃんコイツ追い返していーってばよー」
「よかあないでしょ。なあに、知り合い?」
「友達未満知り合い未満顔見知り?」
俺がまだ青臭い餓鬼だった頃に袖を少ぅし振り合った位の縁だってばよ。お前は相変わらず頭弱ェな、袖振り合うも多生の縁、意味解ってねえだろ。手前ェも相変わらずムカつくな、学生時代にちーっと拘らっただけの癖にこんなとこまで何の御用ですかってばよー、どんな御用でも訊いてなんかやらねえけど聞いて、くらいならやるぜウチハサスケサマ?
ゴッと音がして、つい先まで珈琲を載せていた盆がナルトの頭にクリーンヒットした。させたのは言わずもがな、サクラである。
「団扇って言ったら、大財閥の御子息じゃないの!」
アンタどこにこんなカモ基お客様隠してたのよ! デモサクラちゃんソイツ次男坊だってばよ……?
要は、何でも屋なのである。電球の付け替え、気乗りしない見合いの替え玉そして破談、探偵の真似事、子供の遊び相手。法に触れなければ基本的には何でもやる。金はまあ、気持ち。大抵サクラちゃんが口八丁手八丁で気持ちより多めに頂いているが、それでも事務所は火車からの乗り換えが出来ない。如何せん、依頼人がいらっしゃらないのだ。
2009.07.28 Tue 12:08:02
日記つけたら? と、サクラが言った。二人で日記帳を買いに行った。サクラはそのことを覚えているだろうか、いつまで、覚えているだろうか。
四月三日
二人で手をつないで外に出た。ナルトとサスケ君と偶然逢う。サクラは、ナルトを見て、久しぶりね、と笑っていた。昨日会ったばかりだけれど、覚えていないらしい。昨日逢ったばかりだってばよ、とナルトが言うと、逢ってないわよ、と、少し怒っているようだ。サクラは最近、若返りの術を使わない。師匠直伝の、だ。
そういえばいつだったか、額の皺が増えていくサクラに、師のように術を使えばいい、と言ってやったら、私はこの方が良いわ。皺の分だけナルトやサスケ君が好きなのよ、と笑っていたことがあった。それでもそれから術を使うようになっていたところをみると気にしていたらしい。当然と言えば当然だろうか。
しきりに名前を呼ばれることがある。サイ、サイ、と呼ぶものだから、何、と聞き返すと、ふい、と顔を反らされる。色の褪せた桃色を手でもって透いてやったら、触らないでよ、と怒られた。ナルトやサスケ君には叱るのに僕には正当性なく怒るのは何故なんだろう。彼女と付き合ってからの長年の疑問だ。サクラがナルトとサスケ君のお母さんで、僕の母ではないからだろうか。自分の子供を育てるよりもナルトを育てる方が大変だと大きな声でぼやいている。
四月四日
ナルトとサスケ君とサクラと僕で、花見に行った。四人とも呑む方だから、酒の量は半端ではない。途中何人か、里の皆が挨拶してきた。火影を退いてもナルトは人気だ。少し、サクラとサスケ君の機嫌が悪くなる。まるでエスと自我と超自我のようだと思う。ナルトがエス。子どものように我が儘で、けれどあの三人を繋ぐものとして欠けてはならない。サスケ君が自我。ナルトが暴走しないように、例えば、遊びすぎて火影の仕事に支障を来さないようにしていた。そして、サクラが超自我。ナルトとサスケ君が二人でもって暴走、痴話喧嘩を始めたりしないように、二人のバランスをとる。僕はいつだって蚊帳の外だ、と云ったら、サクラはニッコリ笑っていた。君は最初に僕から忘れていくのかな。
四月十日
少し日にちが開いてしまった。日記どころじゃなかった。サクラが、家を出て行ってしまったのだ。もっともそれ自体は全くなんともなかったのだけれど。
気配を辿ってサクラを捜すと、里の境の椅子に寝転んでいた。一緒に捜索に行ったサスケ君が、苦い顔をして、記憶退行か、と呟くと、サクラはケラケラ笑っていた。「ごっこ遊びよ」里抜けって気持ちがいいの? サクラの頬には涙のあとがあって、だから、ただのごっこ遊びではなかったのだろう。もしかしたら、泣いていたのかも知れない。いつ無くなるか、いつ蘇るか、コントロール出来ない記憶の拙さに。いきなり居なくなるとびっくりするよ。と窘めると急に顔つきが真剣になって、サクラはサスケ君を見据えた。びっくりなんてしないわよ、ただ凄く虚しくなるけど。私は必要なかった? ナルトは必要なかった? ごっこ遊びよ。
そこに僕が入る隙間は少しもなくて、ねえ、サクラ、虚しくなったのは、僕だよ。
四月十五日
水墨画を描いていたら、後ろからサクラに日記を突き出された。すごい剣幕で怒鳴るサクラは、そんなもん書くよりも日記書きなさいよ! 私を残してよ、私が居た証を残してよ、消えちゃう。と、最後には泣き出した。驚いた。
サクラはちゃんと解っていた。段々自分が忘れていくことを理解していた。ものすごい恐怖だっただろう。自分が朝ご飯を食べたのかどうか忘れてしまう。身近なものが解らなくなる。同じことをなんども繰り返し言うようになる。けれど、言ったことは覚えていない。もう老い先は長くはないと、言われているように思ったのかも知れない。
※※※
途中投下。
四月三日
二人で手をつないで外に出た。ナルトとサスケ君と偶然逢う。サクラは、ナルトを見て、久しぶりね、と笑っていた。昨日会ったばかりだけれど、覚えていないらしい。昨日逢ったばかりだってばよ、とナルトが言うと、逢ってないわよ、と、少し怒っているようだ。サクラは最近、若返りの術を使わない。師匠直伝の、だ。
そういえばいつだったか、額の皺が増えていくサクラに、師のように術を使えばいい、と言ってやったら、私はこの方が良いわ。皺の分だけナルトやサスケ君が好きなのよ、と笑っていたことがあった。それでもそれから術を使うようになっていたところをみると気にしていたらしい。当然と言えば当然だろうか。
しきりに名前を呼ばれることがある。サイ、サイ、と呼ぶものだから、何、と聞き返すと、ふい、と顔を反らされる。色の褪せた桃色を手でもって透いてやったら、触らないでよ、と怒られた。ナルトやサスケ君には叱るのに僕には正当性なく怒るのは何故なんだろう。彼女と付き合ってからの長年の疑問だ。サクラがナルトとサスケ君のお母さんで、僕の母ではないからだろうか。自分の子供を育てるよりもナルトを育てる方が大変だと大きな声でぼやいている。
四月四日
ナルトとサスケ君とサクラと僕で、花見に行った。四人とも呑む方だから、酒の量は半端ではない。途中何人か、里の皆が挨拶してきた。火影を退いてもナルトは人気だ。少し、サクラとサスケ君の機嫌が悪くなる。まるでエスと自我と超自我のようだと思う。ナルトがエス。子どものように我が儘で、けれどあの三人を繋ぐものとして欠けてはならない。サスケ君が自我。ナルトが暴走しないように、例えば、遊びすぎて火影の仕事に支障を来さないようにしていた。そして、サクラが超自我。ナルトとサスケ君が二人でもって暴走、痴話喧嘩を始めたりしないように、二人のバランスをとる。僕はいつだって蚊帳の外だ、と云ったら、サクラはニッコリ笑っていた。君は最初に僕から忘れていくのかな。
四月十日
少し日にちが開いてしまった。日記どころじゃなかった。サクラが、家を出て行ってしまったのだ。もっともそれ自体は全くなんともなかったのだけれど。
気配を辿ってサクラを捜すと、里の境の椅子に寝転んでいた。一緒に捜索に行ったサスケ君が、苦い顔をして、記憶退行か、と呟くと、サクラはケラケラ笑っていた。「ごっこ遊びよ」里抜けって気持ちがいいの? サクラの頬には涙のあとがあって、だから、ただのごっこ遊びではなかったのだろう。もしかしたら、泣いていたのかも知れない。いつ無くなるか、いつ蘇るか、コントロール出来ない記憶の拙さに。いきなり居なくなるとびっくりするよ。と窘めると急に顔つきが真剣になって、サクラはサスケ君を見据えた。びっくりなんてしないわよ、ただ凄く虚しくなるけど。私は必要なかった? ナルトは必要なかった? ごっこ遊びよ。
そこに僕が入る隙間は少しもなくて、ねえ、サクラ、虚しくなったのは、僕だよ。
四月十五日
水墨画を描いていたら、後ろからサクラに日記を突き出された。すごい剣幕で怒鳴るサクラは、そんなもん書くよりも日記書きなさいよ! 私を残してよ、私が居た証を残してよ、消えちゃう。と、最後には泣き出した。驚いた。
サクラはちゃんと解っていた。段々自分が忘れていくことを理解していた。ものすごい恐怖だっただろう。自分が朝ご飯を食べたのかどうか忘れてしまう。身近なものが解らなくなる。同じことをなんども繰り返し言うようになる。けれど、言ったことは覚えていない。もう老い先は長くはないと、言われているように思ったのかも知れない。
※※※
途中投下。
2009.07.27 Mon 08:45:22