あいしていると

　愛していると一言区切って言ってごらん。
「あい、している、の」
　近づけた顔。体温の交わる距離は何処なのだろう。既に溶け合ってしまった温度に安堵しながら、恐怖した。此処まで来てしまったら逃げる事の出来ない、離れる事の出来ない、境目が消えてしまったから。私とあなたは同じなんだよ、と囁いて、泣きそうな顔になった。いつだったか、手をつなぐ事もままならなかった時の話。唯手を近付けあって、ほんの少し距離のある手と手。交じった空気がとてもこそばゆくて、それでも、心地よかったの。好きすら言えなかった、恋に乞がれていた。互いに。その間には愛など微塵も無くて、けれど恋の存在だけ、確かに感じていた。
「おもいだして、あのころ」
「おぼえてる」
　くすくすと笑い合う声。それすらも。あの頃にはなかったもの。
　愛していると、一言区切って言ってごらん。きっと届くのだから。お父様に言われた言葉。重なった言葉。

　愛していると。
　泣きそうになった。