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「アリス、別れようか」


 告白のタイミングが卑怯なら、別離の言葉のタイミングも卑怯そのものだ。少なくとも、アリスはそう思った。
 別れよう。ではないのだ。火村は、アリスの返答を待っている。大体、何を考えてそんなことを言ったのかも知れない。別れようか、一つの言葉で別れられるような女に、何故告白なぞしたのだ、ど問いただしてやりたい。女心を弄ぶのもいい加減にしろ。
 一つため息をつく間にそれだけ考えたアリスは、喉に流し込んでいたコーヒーをそっとテーブルに置いた。

「別れたいっちゅうことやな?」
「……」
「うちは別れたないけど、火村がそういうならしゃあないわ」
「……そうか」

 阿呆め、私の言葉一つで落ち込むなら最初から言わなければいいのだ。私の気持ちを聞きたいなら、言ってくれたらいい。素直に。

 アリスは、ソファにだらしなく坐るヘヴィチェーンスモーカーに向かい、長くもない距離を歩いた。
 そのついでにテーブルに放ってあった携帯電話に手を伸ばす。訝しむようにこちらを見上げる火村にニッコリと笑い掛け、その膝を跨ぐとソファに乗り上げた。

「アリス?」

 降りろ、と視線を寄越す火村をちらりと見やり、開いた携帯電話のボタンをカチカチと押し込む。押し終えたそれを耳へ当てた。

「オイ、ア」
「--ああ、もしもし? うん、うちや、久しぶり」

 突然膝の上で電話を掛け始めたアリスに、火村は舌を打つ。そんな火村の耳から顎にかけて、アリスの指が辿った。

「うん、うん、そう、でな? 今から、うち来ぉへん?」
「……」
「ん、ええよ?」

 ほな、待っとるな。
 ピッ。

「これから、うちのこと好きやー言うてくれとる奴が此処に来る。なぁ、うちら別れたら、うちが今日、誰と、ナニしても、お前には関係ないやんな?」
「……そうだな」
「じゃ、帰る?」
「……アリス、趣味が悪いぜ」
「は、何を今更。君を撰んだ時点でわかりきっとったことや」

 本当に、この賢い阿呆は全く。

「君も、うちと別れたら、うち以外の人を抱くんやな」
「アリス」
「別れる前に言っときたいことがあるんやけどな……」

 アリスは、火村の耳元に唇を寄せる。

「うち以外の誰かとセックスするとき、その人の事見てイくんやのうて、うちの事思い出して、イってな?」
「……ッ!?」
「うちが君以外の誰かに挿入れられとる時も、君の事思い出してイくってこと、忘れんといて」

 ほな、別れようか。
 顔を離して膝から退こうとしたアリス、の腰を、火村が強く引き寄せた。

「完敗だ、アリス。別れようかなんて、本心じゃねえよ」
「ふん、あったり前や、火村の阿呆」
「時にアリス、電話の相手は時報か?」
「いんや、気象予報や」
「やっぱり、そんなとこだろうと思ったぜ」
「まあ、嘘やけど」
「……ちょっと待てその『嘘』ってのはどこに掛かるんだオイ?」


※※※


はいはいバカップル乙!
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