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花うり 花うらない

ナツが花を摘む。そこで、花の命は途切れ、終わる、もしかするとその後花は生まれ変わるかもしれないけれど、ナツの知るところではなかった。何故なら、ナツは花でないからだろう、恐らく。ナツは花にはなり得ない。人間。生き物を殺して、生きている人間。

冬が始まって、壱拾弐の日。
ナツは、歩いていた。いらっしゃいませ、と掠れた声が辺りに呑まれて、消えた。別に呼び込みなども必要ないとは思うけれど、一応遊びでも商売なので、それらしくはしておく。冬が来ることを予感させた風が吹いたのが十五日前だから、今年は早い冬が来たことになるだろうか。いつもだったらもう一週間くらいは、秋で通るのに、母親のチエが忙しなく、冬支度をしていた。冬だって、来たくてくるわけじゃない、といったら、チエに、秋が去るから来ざるを得ないのよ。と言われて、ナツは何とも言えずに家を出て、それから延々花車を引いたり押したりしている。花は一本も売れない。元々特別売るつもりなどないから構わないけれど。
秋が、去るそうだ。秋が去って、それでも冬が来たくないと言ったら、その間はなんと呼ばれるんだろう? あり得ないから、不毛なだけ。
「いらっしゃいませ、」


祐二はため息をついた。捗らない、総てが、面倒くさくなる。直ぐに物事を投げ出したくなるのは、悪い癖だと思うけれど治らない。もう、病のようなものだ。目の前には殆ど真っ白な原稿の海が広がって、気分が憂鬱になる。書く気が起きない。何だかなあ。独り呟いて、もう一度ため息をつく。真っ白な原稿。真っ白な頭。構成、締め切り、脱稿、製本。これ、終わるんだろうか? 階下から、母親の声が聞こえて、眉間に皺が寄った。これも癖だ。
「祐二、なっちゃんよ!」
なっちゃん、ねえ、どうして今日に限って玄関から来るんだ。いつものようにベランダ伝いに飛び越えてくれば、この鬱々とした気分も晴れそうな物なのに、まあ、どうせデート帰りだろう。母親が怒鳴っている。ああもううるせえなあ。
足音を極力バタバタと嫌みのようにたてながら、下へ降りると、松葉杖をついた捺が玄関で口をへの字にしていた。
「どうしたんだよ」
「いや、階段踏み外して、さあ」
階段踏み外して骨折して、その様か。ばかめ。デコを小突いてやったら、祐二が母親に叩かれた。
「ど? お話は書けてるのか?」
「……ふ…これ以上ない秀麗かつなんか凄い文の集大成が着々と」
出来てないんでしょ、知ってる、昨日夜中ゆうちゃんの部屋に入って、読んだ。捺が破顔した。
「夜這いか」
「残念」



暇つぶし。今はバイトの休憩中。
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