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 その腕になど、抱かれたいとは思わなかったし、今だって思っていない。過ちでいい。放置された林檎が音もなく腐るように、何時の間にか関係は乱れていた。愛などなく、ただそこに居たのが二人だった。それだけ。触れられることに拒絶したのは精神だけで、身体を抑え込まれればそこには抵抗すら塵芥に等しい異間。口先の反抗? 塞がれてしまえば無言。殺そうと伸ばした腕すら絡め取られて、拘束。自由すぎる自由の中で、噎せかえる堕落の淫舞。汚いとは思わなかった。間違いだとも思わなかった。快楽を求めて誰が悪いと言える? 近親相姦のような些細な罪も、そこにはないのだから。愛がないだけ。問題点をあげるとすれば、問題点がないこと。二人が互いを見ることはない。それぞれのベクトルは何時だって自分自身を見ていた。
 大嫌いです。知ってるさ。冗談ですよ。それこそ嘘だろう。本気だと思うんですか? さあな、お前が考えることなんて、解らなくたって困らねえからな。

 委ねる快楽の色は赤だった。皇帝の広げた腕に飛び込むことこそなかったけれど、その赤は恋しくて。背徳とはまた違う、けれど似た感覚をに、ひたすら口付けを、口付けを。


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