腐敗臭の漂う話

おまへをね あいしてやりとうて しかたないのよ
けれどね おまへはどこかへ いなくなつてしまつて
わたしは おまへをあいしてやることが できなくなつたのよ
だからね かわりに おまへによくにたにんぎようを つくつたのだよ
おまへがね かえつてきたときに かわらずにおまへを あいしてやれるようにね

嗚呼小母様、可哀想な小母様、それは人形ではなくてよ。
嗚呼小母様、可哀想な小母様、もう解らぬのね、貴女の御心は、死んでしまったのね。

腐敗の香りが立ち込めて、だから誰も近付かない。あの娘が物好きにも世話をしに行かなければ、あの婆は死んでしまうよ。あの婆が始終抱いている人形があるんだ、私もそれ程見たことは無いのだけれど、珍しく見た時にはいつだって抱いているから詰まり始終抱いているんだと思うのさ。その人形はね、腐っているんだよ。否、もう直ぐ骨になるね。肉は削げて、だから婆でも持てるのだろうよ。それにあの骨の主は病気で寝込んでいた子供の骨で、すかすか。軽石みたいなんでないかね、私は勿論持ったことなどないよ。あの婆はあれを人形だと思っているけど、あれはね、余所の子供なんだ。死にかけていたのをひっさらってきた、余所のね。薄情な親共だったね、取り返しに来やしない。もう一つ下に息子がいたから、病気持ちの娘なんて要らぬ子供だったんだよ。それにね、みんな知ってるんだけど本人達は隠してる公然の秘密、病気持ちの娘の方は、養子なのさね。実子が産まれなかったからもらったくせに、息子が出来たら要らぬ、だよ。だから婆に盗っていかれても、これ幸いと放りっぱなし、酷いだろ。そして、あの娘、あれはいつぞやから婆の面倒を見ているよ。何故
だろうね。いやね、理由はあるんだよ。そうでなきゃあ、あんな気味の悪い婆の相手など出来るものかね。

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ねむい