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「ちゅう、って、なんか、恥ずかしい感じがしませんか?」

 夢中でチョコレートをパクついていたカンザキナオが、思いついたように呟いた。幼さの残る顔立ちは18歳の女子大生には見えず、制服さえ着れば高校生と言っても通じるだろう。今このときも、チョコレートを頬張るアレは実年齢よりも幾分子供に見えた。その、珍しく大人しくチョコレートを食べていたアレが、いきなり意味の分からない問いかけをしてきたものだから、此方も、間の抜けた返事しかできない。決して、見つめすぎて、反応が遅くなってしまったわけでは、ない。とりあえず、まあ、いっぱいいっぱいの状態では…あったけれど、なるべく顔に出さないように気をつけながら、聞き返した。

「は?何、突然」
「あ、えと、えと、何となくなんですけど…そう思いませんか、秋山さんは…?」

 どうやら、ポーカーフェイスは崩れなかったようで-直が唯単に気付かなかっただけかもしれないけれど、そういう点では勘の鋭い少女なのだ-、直は問いかけを続ける。
 それにしても、この少女の見かけに違わず幼稚な言葉というか、単語というか、と言ったら、いっそ愛しく思えてくる。というのは心にしまいこんで、恐らく『ちゅう』というのは、キスのことだろう、と思いを巡らせる。

(ちゅう、なんて、死んでも口に出したくないな…)
「そう?」

「そうだ、秋山さん、いってみて下さいよ。」

ちょうど考えていたことを提案され、秋山は

「…なんで…?」

「特に、意味はないんですけど…。」

「…何、君、俺が恥ずかしい台詞言ってるのが聞きたいわけ?」

「あ、やっぱり、恥ずかしいって思うんですか!?」

「その反応だと、俺に羞恥心がないみたいじゃないか…」

「だ…だって…なんか、秋山さんてなんでも出来るし…」

「なんでも出来る、と、なんでも言える、は違うと思うけど?」

「そう、ですかね…」

(ちゅう、なんて)
「言いたくないよ」

「…すみません…」

「…言いたくはないから、恥ずかしいかどうか、実践してみようか?」

「え?…ええええぇぇ…!?わ、ちょっと、秋山さん…!」

   ちゅ

「ほ、ほっぺた…?」

「ん?口にして欲しかった?してあげようか?」

「い…いいです!」

「じゃあ、してあげる」

「え、ぇぇえそうじゃなくて、しなく、て、いいです…!」

   ずき

「そこまで嫌がる?」

「だだだだだだって…っ恥ずかし過ぎて、死んじゃいますよ!それに、これで恥ずかしいのって私だけじゃないですか…!」

「そんなことないよ?」

「だって、秋山さん全然恥ずかしそうじゃないし…っ…」

「…それじゃあ今度は、キミがやってみてよ。やった方も、恥ずかしいって判るから」

「…わかりました…」

(単純)

「うぅ…。…っ!」

   ちゅ

「あ」

「あ?」

   ぺろっ

「…な、に」

「チョコがついちゃったんで、舐めたんです。…ていうか…、やっぱり恥ずかしいの、私だけじゃないですか…」

「そうでも、ないよ…」
(びっくりした)

「あ、まだついてる」

「なにが…」

   ぺろ

「とれましたー。あれ?秋山さん、顔が赤いですよ?」

「キミ…さあ…」

「?」

(キミだけには…)
「…かなわない…」

「あー、恥ずかしかったー」

(恥ずかしかったのはこっちだ…)




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