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 真雪散りりと、嗚呼、麗しい、手に、手に降り落ち、融け、掌を焼き。

まゆき

 表にふわりと舞う雪に、あ、と声を洩らす。また、降ってきたみたい。足は火鉢に向けたまま、身体だけを戸口へ乗り出す。ひゅう、と風が鳴った。積もる、降り散る、雪の色、風の音が余計に寒さを際立たせる。嗚呼、そういえば、あちらはこちらほど寒くは無かった。
 こちらで迎える初めての冬は、耳も手の指の先足の指の先までもきりりと冷える程に、寒い。時代の違いは目に見えぬこういった場所にも存在するのだと、改めて感じる。
 体を戻して、火に両手を翳した。寒いね、と、傍らで粉を練り痺れ薬を作る少女に微笑めば、そうだね、と返る。とはいえ、野宿でないだけまだ良い方なのだろう。それに武蔵国はまだ暖かい方だ。

 冬には冬の装備というものがあり、春夏秋冬同じ一張羅でいても良い犬夜叉や温かな冬毛に生え替わる雲母とは違い、師走の寒さを凌ぐには防寒具が必要なかごめ、珊瑚、弥勒、それにまだ子どもの七宝は、その装備を揃えねばならない。立派な屋敷の上の不吉の雲を取り除けば多少の金子と一晩程度の雨風をやり過ごせる屋根は手には入るが、雪が降り積もる前に一度は楓のいる村へ帰り、身支度を整えたい、というのが、犬夜叉以外の気持ちであった。ついでにそろそろ学校に行かねば、と息を吐くかごめの要望も手伝って、楓の村へ踵を返した犬夜叉一行である。
 さて、その村へ足を踏み入れたとたんに楓に声をかけられた。犬夜叉と弥勒が、である。「お主ら、体に大事ないか?」「ああ? そりゃあババアの方だろ。俺達はピンピンしてらあ」「そうか」ならば手伝え。で、男手の必要な雪下ろしに駆り出された二人は文句一つ言う隙は疎か息つく間すらなく楓とともに家々を回り、まだ帰らない。積雪前に戻りたいという願いこそ叶わなかったが、まあ、そこはそれ。だ。

 男衆が力仕事をしているその間に井戸に乗せられた雪除けの板を外しその中に飛び込み現代へと戻ったかごめは、井戸を上り、祠を出、玄関を開けてそこに掛かるカレンダーを見た瞬間に脱力した。赤いマーカーでつけられた×印、は、二十八日を潰したところだ。つまり、今日は二十九日。

「冬休みじゃん……」

 ぱたぱたと足音をさせて玄関口へ出てきた母は、にっこり笑うと、おかえりなさい、と娘を迎えた。

 去年までのこの時期は暮れに迫る晦日、大晦日に向けて清めの大掃除に参加していたかごめだったが、今年は自分の部屋を片付けただけで終わった。それも、一カ月に一週間いるかどうかわからない身空であるに加えて毎日母が掃除機をかけてくれているため、棚や鏡を少し拭いただけで終わってしまう。何となく物足りなさを感じながら階下へ行くと、母手製の料理達が匂いとともにタッパーに入り、テーブルに鎮座在していた。風呂敷を持った母は、微笑みながら、終わった? と問う。うん、と首肯する。

「お正月は戻ってこられるの?」
「犬夜叉が良いって言えばね……でも、犬夜叉が駄目だって言っても、あの雪の量じゃ直ぐには出発出来ないだろうし戻ってこられるかも」
「そう、じゃあ御節は一応用意しておくわね」

 これ、みんなで食べて。手渡された風呂敷は、温かい。いつでも美味しいものを手軽に口に入れられる現代とは違い、あちらはどうしてもその時々で手にはいる食材が限られてしまう。母の優しさと心づかいをその心身に感じ、かごめは、風呂敷を抱きしめた。
 いつもならば三日間は現代にいる。けれどあの積雪量だ。如何に高さのある井戸とはいえ中に降り積もらないとは限らない。井戸の雪除け板は中から被せるのは難しかったため、外したまま。下手をすれば、あちらに着いたときに雪に埋もれてしまうかもしれない。風邪でもひけば、犬夜叉の機嫌はさらに急下降することだろう。

 ガラリと玄関の引き戸を開けても、誰もいない。まだ犬夜叉は解放して貰えずにいるのだろうか。こちらは雪が降る兆しすら見えないと言うのに。

「じゃあ、行って来ます」
「行ってらっしゃい」

 母の見送りだけを背に受けて、かごめは再び戦国の世へ旅立った。



「流石に井戸の中にはつもらないか」

 風呂敷包みを大事に持ち、井戸の底から這い上がればやはり一面銀世界。曇っている空模様だからこそ、その様子を目にとどめておけるが、これが晴れたらまばゆいほどで嘸や目に痛いだろう。
 かごめは短い丈のスカートの裾をきゅっと握る。井戸に腰かけ、足先でもって、積もった雪をザクザク掘った。

「行かなきゃ」

 楓の家に戻ると、雪は少しその勢いを弱めた。雲母がパチパチはぜる火鉢の近くで珊瑚に寄り添うように丸まっている。同様に七宝も丸くなっていたが、かごめが敷居を跨ぐと、ひょいひょいと跳んできた。

「ただいま、七宝ちゃん」
「早かったのう! おらは、また三日くらい返って来んのかと思っとったぞ」
「おかえり、かごめちゃん。まだ犬夜叉も法師様も帰って来てないんだ」
「珊瑚ちゃんは何やってるの?」

 これは、臭い玉、こっちは痺れ薬。量が少なくなってきたからね。
 珊瑚の周り、というか、楓の家から立ち込めるどことなく危険な香りに、かごめは苦く笑う。犬夜叉は怒りそうね。

「七宝ちゃんは平気なの?」
「かごめのくれた塵紙を鼻に詰めとるんじゃ」


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