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 良牙が記憶喪失になったらしい。床につく度に譫言であかねを呼んでいるらしい。運び込まれたのは天道道場の近所の病院だそうだ。

すり替えの記憶

 病院からの電話を取ったかすみに詳細を聞くと、どうやら良牙がうっかり壁を突き抜けたところに丁度四トントラックが走ってきて正面衝突したらしい。四トントラックの運転手は嘸かし驚愕したことだろう。なんの変哲もない道路を走っていたら、突然目の前の壁が崩壊して青年が出て来たのだから。
 良牙は悪くないが、運転手を責めるのもお門違いな話といえる。

「あかねと乱馬君にお見舞いに行ってきてほしいの。私が行くよりも二人が行ってくれた方が何か思い出すだろうし、良牙君が譫言であかねの名前を呼んでるって言うから、あかねのことは覚えているかもしれないでしょう」

 かすみは、これは一応の着替えと、消耗品、と、袋を一つ寄越した。此処まですることもないだろうけれど、どうせ良牙の実家に連絡したところで誰も出やしないし、電話に出たところで病院までは来られないことは乱馬がよく解っている。あの響一家は、揃いも揃ってトンデモ方向音痴だ。
 かすみから受け取った袋を持ち、乱馬とあかねの二人で病院に向かう。病院、なんて、良牙には、一番近そうで一番遠い言葉なのに。

「良牙君、怪我大丈夫かな」
「どーだろーな……。ま、記憶の方は専門外だから解んねえけど、良牙の身体なら四トントラックで跳ねられたくらいじゃ壊れねえだろ」
「身体の方だって、専門じゃないでしょ。東風先生じゃあるまいし」

 軽口を叩き合っている二人だが、常人であれば、即死だ。しかし良牙は常人ではない。打たれ強さは乱馬以上だ。ただ、打ち所が悪かったのだろう。記憶喪失、だなんて。あかねは少し、表情を曇らせていた。乱馬がそれをちらりと見やる。

「なんにせよ、会ってみねえことにはなー」
「そうよね……」



 病院内は、静かだった。子どもよりも老人の方が多い。面会受付で病室を聞くと、にっこりと笑ったお姉さんが場所を教えてくれた。その顔が少しひきつって見えたのは、運び込まれた響良牙が四トントラックに跳ねられたにも関わらず記憶喪失だけで済んだから、だろうか? それとも、
 ガラガラと病室のドアを開けると、彼はベッドに座っていた。リネン室から出されたであろう、真っ白なシーツ。

「よお、良牙。見舞いにきてやったぜ」
「乱馬……と、あかねさん……」

 良牙の恐らくは膝の上に、乱馬が些か乱暴に荷をおく。

「いってえじゃねえか馬鹿野郎!」
「おーおー、元気じゃねーか。記憶もしっかりしてるみてえだし、これなら直ぐにでも退院できるな」

 良牙はいつも通りだった。心配する事など一つもない。

「わざわざ俺のために……?」
「やーね、そんな大袈裟に」

 でも、元気そうでよかった。笑うあかねに、良牙も笑顔になる。

「」
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